(3)お金とは・・・マネタリーベースとマネーストックの違いは?

銀行預金とは

高校生の現代社会か何かの授業では、銀行がお金を預かったり貸し出したりする様子について、以下のように習ったと思います。

  • まずAさんがX銀行に100万円を持って行って預金します。この時点でAさんは100万円の預金、X銀行は100万円の現金を手にいれます。
  • (結論から言いますと、銀行はこの100万円をグルグル回して何回も貸出をすることになります。その様子を以下で見ていきます。)
  • BさんがX銀行に100万円を借りに来ました。X銀行はAさんから預かった100万円をBさんに貸します。この時X銀行は、BさんがX銀行に持っている口座に100万円を振り込みます。(つまり、まだこの100万円はX銀行から出て行っていません。)
  • Bさんは借りた100万円で車を買いました。代金の100万円は銀行振込でX銀行にあるディーラーの口座に支払います(※)。つまり、この100万円は、X銀行のBさんの口座から同じX銀行の自動車ディーラーの口座に移動するだけで、X銀行から外には出ていきません。

 ※もしもディーラーの口座がBさんがお金を借りたX銀行とは別のY銀行にあるとすると、お金はX銀行からY銀行に出て行ってしまいますが、ここでは銀行全体として何をしているかの話をしたいので、銀行の違いは考えないことにしています。

  • 今度はCさんがX銀行に100万円を借りに来ました。X銀行はまだ手元にある100万円を今度はCさんに貸しますが、やはりこの時、CさんにX銀行に口座を作ってもらい、そこに100万円を振り込むことになります。Cさんはこのお金で家の改装工事をして改装業者にお金を払いますが、そのお金はこの改装業者のX銀行のそのお金はやはりX銀行に残ることになります。
  • さて、ここで振替ってみてみると、元々はAさんがX銀行に預けた100万円ですが、これをX銀行は、BさんとCさんの二人に貸しました。合計200万円の貸出です。また、X銀行には車ディーラーが100万円、家の改装業者が100万円、合計200万円の預金があることになります。これは別に何人でも同じように貸し出すことができます。つまり、X銀行は100万円のお金から、その何倍もの貸出をすることができるのです!これが銀行のお仕事です。

この話を聞いて銀行というのはすごいことをするなと感心した覚えがあります。だから30年以上が経過した今でも覚えているのですが、ちょっと待って下さい。今になって一つ言いたいことが出てきました。「ひょっとして、最初のAさんの100万円って不要なんじゃない??」と。

つまり、誰がお金を借りにきても、例えばDさんが1千万円借りたいと行ってきたら、銀行は1千万円の貸付の契約を結んで、Dさんの口座データに1千万円と書き込めばいいということになります。Sさん(孫さんではありません)が1兆円借りたいと言ってきても、貸付契約を締結してSさんの口座残高を1兆円増やすだけで終わりです。

これを帳簿という観点から見てみると、我々が持っている銀行預金は現金と同様、資産になります。(貸借対照表の左側に出てきます。)それに対して、銀行から見ると、資産になるのは貸付金という債権で、預金は負債(貸借対照表の右側)になります。つまり、銀行は貸付を行うときには、それがいくらであろうとも資産サイドに貸付金、負債サイドに預金を載せて「はい!完了」となります。

そうだったんですね。現代の錬金術師は政府ではなく銀行だったわけです(笑) 銀行は経済活動の血液であるお金を作り出し、経済活動が円滑に行われるようにするという重要な役割を担っています。この点、自分で調達してきたお金に金利を上乗せして第三者に貸すノンバンクとは大きく違います。また、万が一銀行が倒産したら銀行が発行していたお金も全部消えてしまうのです。銀行が政府からの手厚い保護の対象だったり、逆に銀行業務には非常に厳しい規制があったりするのも分かりますね。

マネタリーベースとマネーストックの違い

政府が発行したお金の合計をマネタリーベース、世の中に出回っているお金の合計をマネーストックと呼んでいます。(似たような名前で覚えにくいですが、もう少し詳しく言うと以下の通りです。)

マネタリーベース=政府(日銀を含む)が発行したお金の合計。

つまり、紙幣(日本銀行券)、貨幣(コイン)、日銀当座預金(※1)の合計 

※1: 民間銀行が日銀に預けてあるお金のことです。

マネーストック(※2)=個人、法人、自治体等が持っている現金、普通預金、定期預金等の合計

※2: 細かくは色々ありますが、ここではM2と言われるものを取ります。

マネーストックのマネタリーベースに対する比率を貨幣乗数(もしくは信用乗数)と呼びます。これは日銀が1円のお金を発行したら、世の中にいくらお金が出回るかを示した指標です。

マネタリーベース(政府発行のお金) × 信用乗数 = マネーストック

そして、マクロ経済学の教科書(初歩の教科書)では、政府がマネタリーベースを調整することによって、上記の式によりマネーストックを調整することができることが示唆されています。

では、日本における実際のマネーストック、マネタリーベース、貨幣乗数の推移を見てみましょう。(元データは日銀がWebで公開しているものです。)

マネタリーベースとマネーストックの推移

むむむむむ。2013年あたりまでは貨幣乗数が7.5倍あたりで一定していますね。日銀が1万円お金を刷れば世の中には7万5千円のお金が行き渡っていたということです。でも2013年からマネタリーベースが急激に上昇していますが、マネーストックは増えておらず、結果として貨幣乗数が7.5倍くらいから2倍くらいまで急激に下がってしまっています。

これは一体何が起こったのでしょうか?

実は2013年は異次元の金融緩和と言われる金融緩和策が始まった年です。政府・日銀は、デフレ対策として、政府発行のお金を増やすことによって、世の中のお金を増やそうとしたのです。そのころの前提で行けば、1万円のお金を政府が発行すれば、世の中のお金は7.5万円増えるはずで、同時に世の中のお金が増えるわけですからお金の価値が下がってインフレになると考えていました。世の中にインフレくらい怖いものはないという人がいます。お金の価値がなくなることはみな怖がります。経済学の目的は世の中からインフレをなくすことだという人もいるくらいです。ただ、世の中はデフレなので2%くらいならインフレを許容しようじゃないか、そのために禁断の魔術である錬金術を使って世の中のお金を増やしたということです。

この景気回復に向けた努力と決断力は賞賛してもいいのではないでしょうか。 

ただ、問題は、、、たった一つの問題は、、、、、この政策は全く効果がなかった。そういうことだと思います。

なぜでしょうか?それは次節以降で掘り下げて考えていきたいと思います。