(6)まとめ ・・・ 日本復活に向けたシナリオとMMT(現代貨幣理論)

この記事では、現在の日本のおかれている経済的な状況や、政府による経済政策の転換の必要性について説明してきました。私は経済学者ではありませんし、ここでの説明は、世の中で起きている議論をとにかく読みやすく、分かりやすくしたものです。そして、ここでの議論や主張は、MMT(Modern Monetary Theory|現代貨幣理論)という名前でも呼ばれています。ですので、もっと詳しく知りたいという方は、MMTというキーワードで検索すると色々情報が出てきます。

また、この分野で積極的に活動をされている方として、以下の3名の方がいらっしゃいます。MMTというキーワードと一緒に調べてみるのもいいと思います。

藤井聡 先生・・・京都大学教授で過去には内閣官房参与も務めたことがある方です。現在の緊縮財政に対して色々なところで厳しい意見を爆発させていらっしゃいます。話し方は時に関西のお笑い芸人のようであったりしますが、その奥にある知性は隠しようもない方です。

中野剛志 先生・・・経済産業省にお勤めの現役の官僚で評論家としても活動されています。あるいは逆で、経済評論家ですが、経済産業省にもお勤めなのかもしれません。この記事を見て、もう少し詳しく知りたいと思った方に個人的に最もおすすめしたい本は、『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』という中野先生の本です。KKベストセラーズからKindle版で1,584円です。この本は少し古い例えですが、映画マトリックスの第一話で、モーフィアスが主人公ネロに渡した赤い薬(※)のようなものです。

三橋貴明 先生・・・経済評論家で数々の本も出されています。YouTubeでも無料で数々の解説動画を出されていますのでまずはそちらを御覧になるのもいいかもしれません。

※主人公を眠りから醒まし、世界の真の姿を見せる薬。謎の男モーフィアスは主人公ネオに対し、青い薬と赤い薬を差し出し、「青い薬を飲めば何事もなく今までの日常に戻れるが、赤い薬を飲めばもう元には戻れない」と話す。ネオは迷わず赤い薬を飲む。

最後に(管理人から一言)

MMTからは、赤字国債の発行自体をゼロにする必要はなく、インフレ率等との兼ね合いから発行量をコントロールしていけばいいという結論が導き出されます。いや、MMTがまずあってそこからそういう結論が出るというよりは、日本という壮大なマクロ経済の実験場から、まずそういう結論があって、その正しさを説明する枠組みとしてMMTが妥当だということだと言ってもいいと思います。

つまり、「デフレ対策として、財政出動を行うべき」という結論は動かないと思います。次の質問は、何にお金を使うべきか?となるでしょう。極端な例で言うと、政府が人を雇って午前中は穴を掘り、午後にその穴を埋めるような仕事をしてもらって、それに多額の給料を払うのでもいいのか?というような質問です。これに対する回答は、例えそんなものであってもやらないよりはましということになる思われます。MMTの提唱者であるステファニー・ケルトン教授によると、日本経済にインフレ懸念がないのであれば消費増税などせず、単純に高齢者の年金支給額を上げてもいいとのことです。

現実問題としては、まずはプライマリーバランス(政府の収支)黒字化という意味がないことがほぼ確定した目標を取り下げることが最初のステップだと思います。その先は、老朽化した道路の整備でも、災害対策でも、必要と思われることに従来の意思決定の仕組みを使って予算を割り振っていけばいいです。何をやったとしても穴をただ掘って埋めるだけよりは効果が認められるでしょう。

さて、MMTを打ち立てた米国の経済学者は、政府は具体的に何をしたらいいのかということも言っています。就業保証プログラムというもので、政府が全ての人に最低賃金での雇用を保証するものです。私はMMTがお金を説明するロジックは妥当だと思いますが、だからと言ってこの考えには賛同はできません。日本でMMTをサポートする人も全てがこの就業保証という考えにまで賛成しているわけではなさそうです。この考えを受け入れることに対する警鐘として、昔読んだ本の以下の一節が浮かびます。(※以下はおそらくピーター・ドラッカーの書籍の一部ではなかったかと思いますが、現在のところ出典は不明です。どなたか分かる方がいたら教えて下さい。)

  • ヨーロッパの多くの国々は、ゆりかごから墓場までと言われる、政府による充実した福祉を享受しており、失業者に対する保護も手厚い。但しその見返りとして失業率も高くなっているを指摘しなければならない。人は働く必要がなければ働かなくなるのが現実である。ヨーロッパの人々は高い失業率に関して政府に文句を言うが、充実した福祉を自ら手放そうとは言わないものである。
  • スウェーデンには病気で休んだとしても労働者の給料の大部分を保証する法律がある。かくして、スウェーデンは世界でも最も病人が多い国の一つになっているのである。

くり返しになりますが、現在の日本は一刻も早くプライマリーバランス黒字化目標を撤廃すべきだと思います。その先何にお金を使うかは、皆で議論すればいいと思います。

<おまけ>経済学者に関するジョーク

私が好きなジョークに次のようなものがあります。

数学者、統計学者、経済学者の3人に、1+1は何になるか聞いてみた。数学者は答えた。「1+1は2です。」 統計学者は答えた。「小学校1年生の児童の98%は1+1は2だと答えます。」 最後に経済学者にこの質問した。すると経済学者は急に真顔になり、ドアに鍵をかけ、窓のカーテンを閉め、質問者の耳元で小さな声でこう言った「それで、1+1をいくつにしたいのですか?」

このジョークが面白いのは、経済学という学問が他の学問と比べるとまだ未成熟で、手法や理論が確立されているわけではなく、どうしても後付けの理屈になってしまうことが多いということをうまく言い当てているからです。経済学の世界はこれでいいのです。でも、経済学者の言うことが全て論理的・科学的に正しいと思ってはいけません。